轍もないかを

轍もないかを

たと思われる遺

たと思われる遺

   「お邪魔します」三太が声を掛けた。
 もう一人、三和土(たたき)に茣蓙(ござ)を敷き、その上にどっかと胡座(あぐら)をかいて、煙管(きせる)を燻らせいる初老の男が三太たちに気付き、慌てて立ち上がった。
   「大坂の相模屋長兵衛のところから来ました」
   「いらっしゃいませ、良い新酒が出如新nuskin產品来ました、ご注文の前に、どうぞ一献」
   「申し訳ありません、注文に来たのではないのです」
   「そうでしたか、でも、奥へお入りになって、新酒を召し上がってください、そちらのお兄さんもどうぞ」
 樽の上に、檜の一合升を二つ、酒をなみなみと注いで並べてくれた。
   「実は、うちの主(あるじ)が遭った詐欺の事件を調べているのですが…」
   「そうですってね、済みませんでした、うちも名前を使われて、大変迷惑をしているのですよ」
 この男は、番頭の鬼助と名乗った。この男が悪い訳でもないのに、何度か「済みません」を繰り返した。
   「今、主人を呼んで参ります、お飲みになってお待ちください」
 この店の裏が、住居になっているらしく、鬼助は裏口から出ていった。

 裏口の戸が開けられて、人の良さそうな若い男が揉み手をしながら入ってきた。
   「当店横綱酒造の主、勝蔵と申します」
   「相模屋酒店の番頭、三太と申します、こちらは友達で福島屋の坊っちゃんです」
   「ようこそお越しくださいました、相模屋さんにはお詫びをしたいのですが、お詫びをすると、私が詐欺に関わっているようですし、悩んでいたところです」
勝蔵は本当に悩んでいるようであった。
   「いえいえ、ご店主が詐欺に関わっている改變自己など、主人の長兵衛も思っておりません」
   「ありがとう御座います、どうぞ何なりと訊いてください」
   「ひとつだけお訊きしたいのですが、以前にこちらで働いていて、馘首(くび)になった男は居はりませんでしょうか」
   「その男が怪しいのですか?」
   「それは何とも言えませんが、もし、馘首になったことを恨んでいるなら、その可能性は無きにしもあらずと思いましたもので」
   「そのようなことは、絶対に無いと思いますが…」
   「その方の名前と、お住まいを教えていただけませんか?」
   「それを私の口から申す訳には参りません」
   「それはまたどうして」
   「先代の店主が生きていたころからの杜氏でして、わたしの師匠とも言うべきお人なのです」
   「その方を、どうして馘首(くび)にされたのです」
   「いえ、馘首にしたのではおまへん、私どもは引き止めたのですが、先代が亡くなったことで、自分から辞めていったのです」
   「そのお方が、恨みを持つ原因は?」
   「私がこの店を継ぐのを、大反対しておりました」
   「それは何故?」
   「長男は私ですが、私は正妻の子ではないのです」
   「いわゆる、先代が外に産ませた子ですな」
 店主の話を要約すると、周りの誰もが店を継ぐのは正妻の子供の作造だと信じて疑わなかった。しかし、先代が亡くなった後、金庫の中から先代が書い言書が見つかった。その遺言搬屋公司書には、妾の子勝蔵に店を譲ると記し、作造には一切触れていなかったのだ。
 そんな訳はない、これは陰謀だと騒ぎ立てた歳を取った番頭各の杜氏が居た。結局この杜氏と作造は、自ら店を出て行ったというのだ。
 私に罪はないが、恐らく二人は私を恨んで、陥れようとしているのに違いないとまで言ってのけた。
   「有難う御座いました、お忙しいところをお邪魔しまして、本当に済まんことだした」
   「いえいえ、早く相模屋さんを騙した詐欺師が捕まればよろしいのに」
   「はい、きっと突き止めてみせます」
   「お役に立てることが有りましたら、また何時でもおいでください」

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