るかも知れません
「そうかも知れません、長兵衛さんは、どんな手口でした」
長兵衛は、恥も外聞もかなぐり捨てて、亥之吉に打ち明けた。
「笑いなさんなよ」
前置きをして、ぽつりぽつり話した。摂津の国は灘の、酒造りに従事するものは十人程度の造り酒屋の主人が、米の相場に手を出して大損をし、倒産寸前だという。もし、援助して貰えたら、灘の生一派遣社員本「横綱盛」の販売権を全てと、高槻藩御用達の看板も譲渡する。今後は酒造りに専念し、より良い銘酒「横綱盛」を造っていきたいと店主一同願っていると聞かされた。
あの銘酒「横綱盛」を無くさずに済み、おまけに販売権の全てが手に入ると、長兵衛は喜んで千両もの金を渡してやったのだと言う。
金を受け取りに来た作り酒屋の主は、「横綱盛」を無くさずに済んだと、有難がって伴の者に荷車を引かせ、涙ながらに帰っていった。
その後、何の音沙汰も無いので、使いの者を灘に行かせたのだが、当の造り酒屋は倒産寸前に追い込まれたことはなく、当然ながら援助を求めたことも無いと言うことだった。
使いの者では埒があかないと、長兵衛は自ら灘の造り酒屋へ行って確かめたが、当の主は長兵衛のところまで来た者とは違っていた。
自分は詐欺の手には乗らないと自負していた長兵衛だけに、欺かれたと分かったときの打撃は大きかった。
「相模屋さん、あんさんのところは、千両盗られたぐらいでお店の屋台骨が傾くことはないと思いますが、その金はわたいが取り返して、詐欺師を奉行所へ突き出してやります、詐欺師の人相と、造り酒屋の場所を教えてください」
亥之吉は、要点の説明を訊くと、わたいに任せとくなはれ。仇はきっと取ってあげますと、自信ありげに言った。
「相模屋さん、恋患いのぼんぼんみたいに横になっていないで、ばりばり働いて気を晴らしなされ」
亥之吉は、ちょっと言い過ぎたかなと反省しながら、長兵衛の寝所から離れた。
「ところで、番頭さん、うちの倅がお邪魔していませんか?」
「辰吉坊ちゃんなら、来はりましたが、三太と二人して亥之吉さんのところへ相談に行くと出て行きましたで、亥之吉さん、それで来てくれはったのやなかったのですか」
「どこかで行き違いになったようです、福島抗皺屋でわたいの帰りを待ってい」
亥之吉は、急いで帰ってみたが、二人の姿はなかった。
「あいつら、二人で灘へ行ったな」